「サルと歩いた屋久島」
「サルと歩いた屋久島」 山極寿一 山と渓谷社 2006.
サルのことをあまり知らなくても、屋久島の自然に関心のある人なら、山極寿一さんの名前はどこかで耳にしたことがあると思う。屋久島のサル研究の基礎を築いた一人であり、ゴリラの研究で世界にその名を知られる第一人者である。
「生命の島」などで一般向けにも多くの記事を執筆されている山極さんだが、「通し」で屋久島とご自分にについて書かれたものはこの本が初めてではないだろうか。
広い視野とエネルギッシュな行動力、冷静な筆致。研究や自然保護についての内容もさることながら、その過程で得られた結果や人脈を生かし、より社会的な成果へつなげてゆく力量。この人が現在の屋久島に与えた影響は大きい。
サル研究の最新のまとめはもちろん非常にためになるし、「・・・よ、よく死にませんでしたね」級のエピソードがちらりほらりと飛び出すのもさすがだが、通読してやはり印象に残るのは、西部照葉樹林についての話だ。研究書や論文で断片的に読み知ったことも、本人の述懐でまとめて読むのは一段と味わい深いものがある。
折りしも西部の森の利用については、昨年度末に屋久島エコツーリズム推進協議会の作業部会で検討されたばかりだ。会議では山極さんから1時間にわたり現状と将来に関する見解が示され、これを元に観光協会ガイド部会から提出された厳しい規制を旨とするガイドライン案が検討されて、一応の決着を見た。(残念ながら西部の森を紹介するガイドの資格の認定についてはうやむやなままになってしまい、なお厳しい詰めを残しているのだが)
山極さんを始め、西部に関わった人々の森への深い理解と想いを受け継ぎ、損ずることなく屋久島を訪れる人々や次の世代へ伝えてゆきたいと、あらためて肝に命じた。
「ひかりのあめふるしま」 田口ランディ 幻冬社文庫)を読んで屋久島に触れた人には、ぜひこの本を手にとっていただきたいと思う。
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