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2007.12.19

シカが喰っていたものは・・・(自然の掟に弱い方は見ないで)

YNACは西部照葉樹林でシカの観察を長年続けており、時々びっくりするような事を見てしまう。

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12月16日午前11時頃。雌のシカが何かを食べている。

このシカは首輪に発信機をつけられている。これは北大のAさんの研究機材で、ラジオトラッキング法でシカの行動を調べるためのものだ。

その首輪メスがこちらを気にしながら、しきりになにかをかじっている。ふっと首を起こすと・・・

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何か棒のようなものを奥歯に咥えていた。ゴオリ、ゴオリ、と熱心にあごを動かし続けている。その「棒」の端っこには黒っぽい部分があり、なんとなくそこが二又になっているような気がする。

うわ、これはもしかすると・・・。

少し強引に近づいてみる。シカはこちらを見ながら頑としてその場で噛みつづけていたが、じきに耐え切れずに駆け出した。こちらもその場に駆け寄って、ぽろっと落とした「棒」を見れば、う、やっぱり・・・。

(↓この下に気持ち悪い写真があります。気をつけて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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シカの生前足であった。

人間で言うと手首の部分だ。露出している骨が齧られて叉状になっている(左下)。黒い部分はやはり蹄で、ここは柔らかいのだろう、だいぶ噛み潰されている(右)。

屋久島でヤクシカが落ち角を齧ることを発見したのは、YNACの市川だ。これまでに多数の観察例がある。そして種子島の隣の馬毛島では死んだ仲間の骨を齧ることが知られており、これも屋久島でもすでに観察されていた。

でも、こうも生々しい齧り方をするとは予想しなかった。これでは骨齧りというより、共食い、しかも死体喰いではないか。シカがここまでするのか。

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近くにもう一本、後足が落ちていた。これもシカが齧りながら引きずってきたのだろう。胴体も近くにないか探してみたが、見つからなかった。

以前はよく落ちていた角を最近見かけないのは、おそらくシカが見つけ次第食ってしまうようになったからだろう。最近シカの死体を見つけても、短期間に消えてしまうのは、仲間に食われてしまうからかもしれない。

死んだものは仲間に食われ、残ったものは仲間の骨を齧って生きながらえる。ほとんど餓鬼のさまよう地獄絵図のようだ。

草食動物の骨食いは、Osteophagia(骨食い病?)と呼ばれ、海外でも知られている。キリンが骨とかハト(!)とかを食べてしまうのはわりと有名だし、ヨーロッパアカシカでも報告例がある。 

沖縄伊江島の旧石器時代の遺跡(カダ原洞穴、ゴヘズ洞穴)で発見されたシカの骨が、当初は叉状(フォーク状)骨器と思われていたが、検証の結果シカがしゃぶった噛み痕で、人工物ではないと結論された、という例もある。

この「骨食い病」は、リン酸不足によるミネラル欠乏が起こすといわれている。口や喉に骨がささったりすることもあるらしい。またある資料によると、ボツリヌス中毒症になった例があるようなので、反芻動物が腐敗した死体を食べるというのは珍しいことではないのかもしれない。

いずれにしてもシカにとって西部は慢性的な餌不足の場となっているのは確かだろう。今年生まれた仔鹿たちは一様に育ちが悪く、12月になったというのに小さいままである。島内でこれほどシカを多く見かけるところは他にないが、過密の果てに死体喰いをするほどおちぶれてしまっては、ヤクシカも先がないのではないか。

それにしても食料の足りなくなったシカたちは、なぜ餌を求めて西部からどんどん他の地域に移動してゆかないのか。そういう智恵がないのだろうか。それとも少しづつ脱出してゆくシカはいるのだろうか。

仲間に食われていた個体のようにつぎつぎと滅亡へ向かい、個体数を減らしてゆくのか、矢原プロジェクトが示したように食圧として屋久島の植生にいかかるのか、興味深いところだ。

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屋久島のようす(自然史)」カテゴリの記事

コメント

北大のシカの専門家、立澤史郎さんからメールをいただいたので紹介します。↓
  
こんにちは,立澤です.
わざわざご連絡ありがとうございました.
しかしこれはすごいですね!!!

馬毛島ではおそらく数百例以上の「骨食い」「角食い」を見ましたが,実験をしても晒されていない骨はかじりませんでした.

別の場所でミイラ化した鳥の死体を囓っているのを見たことがあるので,可能性がないとは言えないとは思っていましたが,こんな生に近い状態を囓るとは驚きです.はたして何を摂取しているのか,骨髄そのものならもろに栄養不良が効いているのでしょうね.

西部の子が去年・今年と随分小さいというのは,他の人からも聞いて興味を持っています.(シカの子たちが)足の長さなどちょこっと計らせてくれればうれしいのですが
(^^;).

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