屋久島山岳部保全募金 及び
山岳部トイレ管理事業実施(案) に対する意見(パブリックコメント)
市川聡 小原比呂志 (連名)
1.現状認識と、事業の趣旨について
◎ヤクスギランドや白谷雲水峡、永田浜では、入口段階で半ば強制的に協力金を徴収するという体制が取られている。しかし協力金は、屋久島文化村財団10周年シンポジウムで横浜国立大学の加藤教授(協力金問題の専門家)が述べておられたように、本来は出口で、お客様が実際に管理体制や保全の実態を見てきた上で、その主旨をよく考え協力するかどうかを判断すべきものである。
◎「管理にお金がかかるのであるから利用者が協力するのは当然であり、協力しないものは不心得者だ」 という考えは、協力金の主旨とは合致しない。それであれば入園料、ないし入園税として徴収すべきである。協力金という体制を取る以上は、あくまでお客様の善意に働きかけて協力を呼びかけるのが本来のあり方である。
◎協力金を効率よく収集することに主眼をおいた入口での徴収方法は、善意の強制であり、実際に入園後にヤクスギランド等で最も目立つゴミが、入口で協力金の支払いと引き替えに手渡される協力金の領収書であること等を考えると、本末転倒、環境保全を語った「たかり」とも受け取られかねない危険性を孕んでいる。
◎従って既存の協力金は利用者に対してとうてい胸を張って拠出をお願いできるようなものではない。今回の保全募金とその運用に関して、島内観光業者としては、お客様が自ら判断し気持ちよく協力金を払いたくなるような優れた徴収体制の構築を求めたい。もしフェアなものでなければ、訪問客のよりよい屋久島体験に責任のある観光業者として、協力するわけには行かない。
◎世界遺産屋久島の魅力は多くの人を強く惹きつけているが、一方で一般には経済活動に不利となるはずの離島としての立地条件が、逆に観光利用をコントロールしやすいという利点になっている。しばしば耳にする「登山者が集中し・・・観光客が押し寄せて自然環境への影響が懸念されて」云々とは、あきらかに利用者に責任があるとする物言いである。手をこまねいて事態を悪化させてしまったことへの責任逃れにしか聞こえず、募金を通じてご協力をいただこうという姿勢とはいえない。まずもって国の責任、県の責任、町の責任、島民の責任を明らかにし、その上で利用者に協力を求めるべきである。
◎世界遺産に登録されて15年も経っているのだが、その間行政は山岳部トイレの改善に関して、いったいなにをしていたのか。いまだに「登山者が集中し・・・観光客が押し寄せて自然環境への影響が懸念されて」などと書かれているが、対策が遅れた言い訳にもならない。観光客を仮想敵とし、自然破壊の責任を押し付けるような理由付けは無責任であり、屋久島来島者に対して失礼である。(案)文面から削除するべきだ。
◎観光業はこれからの屋久島の基幹産業のひとつであり、世界遺産の名にふさわしい保護・利用・教育のバランスの取れた健全なものに成長・成熟させなければならない。環境・観光行政の根底には、まずこの見解を置くべきである。そのうえで、資金難のおり、屋久島を愛する利用者とともに屋久島の自然環境を守ってゆきたい、という姿勢をとるべきである。
2.実施主体について
◎地元行政として合併した屋久島町が執行機関となることは筋が通っており、賛成できる。但し受益者負担として協力金を徴収する以上、地元町が観光客が来訪することによる最大の受益者であることを忘れてはならない。
◎今後鹿児島県から環境省直営に移行する登山施設の管理の、地元自治体引き受け分の財源としてこの募金を活用してゆくとのことだが、これはまさに当初からうたわれていた『環境キップ』の理念に近いもので、納得できる。これを機会に既存の他の協力金と統合を図り、一元的な世界遺産管理に役立てていただきたい。
3.事業の概要について
◎今後トイレをバイオトイレなど分解型の搬出コストのかからないものにしてゆくべきなので、募金の用途を避難小屋汲み取りトイレの搬出用にのみ限定する必要はない。登山道整備等、利用施設全般の管理に使える基金とすべきである。
◎ヤクスギランドと白谷雲水峡で募金500円を募る上に、現行の協力金300円まで募るのは、合計800円となり高すぎる。自然休養林の管理協力金も町が主体である美化協議会が主体となっているのだから、今回の山岳保全募金に含めて、白谷とヤクスギランドの管理費も、必要な金額だけを基金から拠出するようにすべきである。利用者の立場に立てばそれが自然な感覚である。絶対に現状の延長で強制的に取るべきではない。
◎人力搬出に関してはあくまで臨時のものとすべきで、基本的にはヘリ搬出をするべきである。
やむを得ず人力搬出をする場合は、高塚小屋、新高塚小屋に関しては混雑する大株歩道を下ろすと利用者の迷惑になるので、白谷17支線管理歩道を使うべきである。
◎このような受益者負担の募金は屋久島訪問客に広く薄く求めるべきで、山岳地の利用者に限定して取り立てるような形ではなく、空港や港など、どこか一箇所で環境キップを購入できるようにして、そのキップを持っていれば白谷雲水峡でもランドでも入場が無料になるようなものとしてゆかなければならない。繰り返しになるが、白谷雲水峡とヤクスギランドの協力金やウミガメ観察協力金等は将来廃止して、環境キップに一本化するべきである。
◎「どこにいっても金を要求される。世界遺産をかさにきて金に卑しい島である」
このような評判が定着することは絶対に防がなければならない。そのためには、募金の主旨、目標金額、使途を明示し、目標に達したら募金を打ち切るくらいの明朗性を維持しなければならない。本来公共施設の維持管理は管理者である公共機関の責任において予算化し行われるのが筋であり、協力金や寄付金などを任意でつのり資金源とするようなものではない。
◎集まった浄財の使途について詳細を公表するのは当然のことである。裏を返せば島内で他に集金されている一部の「協力金」なるものに、あまりにもドンブリ勘定でその正当性を信頼していいのかどうか不明なものがあるということで、これはまことに遺憾なことだが、今回の募金はこのような不信感を一掃するものでなくてはならない。
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