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2008年5月

2008.05.28

コケ・トレール 湯泊歩道

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写真:樫村精一(YNAC)

屋久島でもっとも雨の多い場所はどこだろうか。林野庁屋久島森林保全センターのデータによると、平成11年(1999)の淀川登山口で11,718mm/年というのが、歴代トップで、非公認ながら国内最高値のようだ。

ただこの年ヤクスギランドでも10,553mm/年という記録がでており、その後平成13年、15年にも1万ミリ台を記録している。淀川を越える年も多い。要するにヤクスギランドから淀川にかけての安房川支流の荒川流域こそが、年間降水量1万ミリを誇る、国内でもっとも雨の多い地帯だといえるだろう。

淀川の源流から西面の黒味川メンガクボにかけては、屋久島には珍しい広い緩やかな地形面で、私は花之江河台地と呼んでいる。沢は沼のようにゆったりと流れ、大雨が降っても簡単には流れ下れないために、驚くほど~淀川の橋でも3mくらい~水位が上昇する。

では屋久島でもっとも蘚苔類(コケ)の量が多いところはどこだろうか。 屋久島を訪れるコケの専門家に尋ねると、多くの方が 「ヤクスギランドから淀川にかけてでしょう」 とおっしゃる。その通りだと私も思う。この一帯の森を越える蘚苔林(モス・フォレスト)は国内には存在しない。

南東方面の太平洋から押し寄せる、膨大な水分を含んだ雨雲が荒川をゆっくりと登ってゆき、淀川とメンガクボを分ける分水嶺へと押しあがる。湯泊歩道は、そのゆるやかな尾根筋をつたって、花之江河からジンネム高盤岳へと続く古道だ。

湯泊歩道の大きな特徴は、スギが少ないことである。これは屋久島南部の山の特徴でもあるのだが、ツガとモミが多い。特にツガ林のひろがりは印象的だ。葉を枝ごと塊のまま落として厚く堆積させてしまうスギと違い、ツガは細かな葉をばらばらにして落とすため、コケの生育を邪魔しない。またツガはその空を緻密に埋めてゆくような隙のない枝ぶりで地表を暗く保ち、下生えの生育を押さえ込んでしまう。すべてがコケの生育を助けている。

このツガの枝、根元、地表、すべてをコケが覆う。

雨を楽しもうと「楽しい前線を!」と、山で会ったYNACタカのパーティーに叫んだら、苦笑されてしまったが、雨の湯泊歩道ほどコケの美しい道は他にない。

道はか細く、迷いやすい。決して一般にはおすすめしないが、湯泊歩道こそ屋久島最高のコケ・トレールだ。

2008.05.26

シャクナゲ開花

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高塚~湯泊と縦走してきました。シャクナゲは、平石付近ですでに満開。新高塚、焼野、付近は5分咲き、投石、湯泊歩道はぽつぽつ咲き始めです。今年のシャクナゲ登山はなかなかいいタイミングになりそうです。喜んでもらえるでしょう。

平石付近でいち早く咲く花には白い物が多いのですが、淀川や湯泊の暗いツガの森の下で6月に入ってから咲くシャクナゲは、名のとおり美しいシャクナゲ色を長く保つようです。これは紫外線による退色のスピードの違いだろうと思いますが、株による個体差もありそうですし、理由付けは難しそうです。

また詳しくは調べていないのですが、高塚・鹿之沢方面、宮之浦岳周辺のヤクザサ帯、花之江河・淀川方面で、それぞれシャクナゲの暮らしぶりが少し違うようです。

なお樹林帯にはえる大型の個体を「オオヤクシマシャクナゲ」として分ける向きもありますが、これはおそらく生態的な生え方の問題に過ぎないので、区別する必要はないでしょう。

シカが喰っていたものは…2 @新高塚

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5月22日、夕刻の新高塚小屋。誰かに餌付けされてしまって、いつもこのあたりにたむろしている目つきの悪いオスジカ。なにか硬そうなものを奥歯でごりごり噛んでいる。

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ごおりごおりごおりごおり、ごおりごおりごりごおり、よだれがアブクになってだらだら垂れている。またホネか?誰かにカラアゲでも貰ったのか?でもそれにしては妙に硬そうな感じがする。

ひょいっ、とフェイントをかけると、一瞬身構えるが、口の中のものを落そうとはしない。しつこく噛み続けている。まーどうせ骨だろう。ここまで堕ちてしまっては救いようがないな、と小屋に戻ろうとしたそのとき、ポロッとなにかが口から落ちた。思わず「ワッ!」とおどし、シカが逃げた隙に「それ」をゲットした。

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石? 

こいつ、石を喰ってたのか?

何の石だろう。花崗岩ではない。といって小屋を建てたときの砕石(堆積岩)とも違うような気がする。よだれくさいので、水で洗ってからよく観察するが、やっぱりわからない。で、割ってみた。

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簡単に割れた。・・・これはセメントだ。

このシカはなんとセメントを喰っていたのだ。

角喰い、骨喰いはまだわかる。死体喰いもまあ・・・引っかかるものはあるが、餓鬼道に落ちたと考えれば理解はできる。セメントは石灰岩つまり大昔の貝殻やプランクトン殻などの炭酸カルシウムが原料の1つなので、骨に準ずるといえば準ずるのかもしれないが・・・しかしセメントとは。

シカの消化は胃内微生物に頼っている。普通は食べた植物を第一胃で微生物にかもさせて、反芻で粉々にこなしてから、発酵食品として本格的に消化吸収する。そこにセメントを入れるとどうなるのだろうか。

そもそも、そこに転がっている「石」を、このシカは何故食べ始めたのだろうか。すでに餌付けされていたこのシカに誰かが石ころを投げ、それがたまたまセメントだったのだろうか。それともこの哀れなシカの脳裏に神の啓示のようなものが「ピン!」ときて、ただの石ではない「それ」を食べ始めたのだろうか。

シカの堕ち方は留まるところを知らないようである。

夕食の準備をしながら外でくつろいでいると、近くで件のシカがまたごりごりし始めた。どやしつけて取り上げてみると・・・

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またもやセメントだった。

2008.05.19

「もののけ姫の森」を消しませんか?

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5月13日の白谷雲水峡「もののけ姫の森」看板の立っているポイント。道が拡がりいよいよ悲惨なことになってきました。

看板の立った段階で、こうなることは予測できました。美しい場所でしたが、ひどくなる一方です。

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「写真圧」とでも呼びたい力で、道が森を侵食しています。道が押し出した分、奥行きのあるながめだったのが、ずいぶん浅い感じになってしまいました。看板がなければここまでの事態にはならなかったでしょう。

ここはもう ①看板を撤去し、②「もののけ姫の森」なる名称も指導標などから消去し、③荒れた部分はデッキか木道を設置して、踏み込み圧をやわらげるようにするべき、だと思います。

映画『もののけ姫』の舞台設定は、中国地方の鉄の山地のどこか、というのが定説で、屋久島は、イメージ取得のためにロケハンを行っただけです。白谷雲水峡でもロケハンがすこし行われていますが、ストーリーとは関係ありません。

観光地がマスコミをありがたがり、イメージを固定化されて、消費されて陳腐化してしまう、というのはおきまりの流れです。

もののけ姫はたしかに優れた映画ですが、作品よりも白谷雲水峡の本物の自然のほうがはるかに価値があるのではないでしょうか? イメージを依存することによって消費されてしまうことは、避けなければなりません。

2008.05.15

『屋久島森林視察の感想』 河田杰 1933

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前ページの「しぜんかん」第12号で紹介した柿木さんの論文に先立つ昭和8年、国の林業試験場(現在の森林総合研究所)技師の河田杰(かわだ けつ)博士による「屋久島森林視察の感想」(熊本営林局)という冊子が発行されています。

河田博士は昭和15年に東大を卒業し、戦後茨城や千葉の荒廃した海岸におけるクロマツの植林の指導者として知られる専門家で、国有林などの森林施業に植物生態学の視点を導入した先駆者の1人です。

これは、全国の森林を知っている専門家が、初めて屋久島を訪れて、藩政時代初期の第一次伐採が終わってから300年以上手をつけられなかった、小杉谷の大森林を目の当たりにした際の驚愕と喜び、そして何とかこの巨大な自然の全体像を把握したいという想いが炸裂するような論文です。

その中から最後の「9.結び」から引用。

屋久島は、・・・総ての意味からの国宝である、而して宝と云うことは、必ずしも物質的に換算して価ということではない、只宝であるが故に宝である

・・・従って単にこの見地からみれば、吾々は屋久島には、一指さえも触れたくないのである

只此に極めて大切なことは、再得べからざるの宝迄も強いて・・・其滅亡を早からしめる要はないのである、否斯かる事をしてはならぬのである

(一部かな等を変更してあります)

戦争を前にして「森林の更新」という理屈の大伐採直前の屋久島の森林を救いたい、絶叫するかのような訴えに、胸が震えます。その頃にさえ、いやその頃にこそ、柿木さんやこの河田博士のように、屋久島の意味を理解していた人はいたのです。

それにしてもよくこの冊子を、熊本営林局が出版したものです。まだ国有林関係者にも、鷹揚な空気はあったということでしょうか。

2008.05.14

「しぜんかん」第12号

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「しぜんかん」第12号が出ました。屋久島町誕生記念号とのタイトルつきで、普段よりページ数の多いビジュアルな仕上がりになっています。

ページを開くと自然館の年表。平成元年の創立ですので、自然館は今年でもう創立20周年を迎えるのですね。早いものです。実をいいますと、小原も自然館の学芸員募集に応募したのですが残念ながら2人受験したうちの、次点となったのでした。

しかし学芸員は現職の松本薫さんで本当によかった。当時の屋久町の人事担当者は人を見る目があったなあ~と、この年表の着実な歩みをながめつつ思います。

記事の中でひときわ(私の)目を引くのは、その松本さんの筆による記事「屋久島林業史の父 柿木司さん」です。

昭和15年に発表された柿木さんの「屋久杉の成立に関する研究」は、国有林伐採が始まってまださほど経っていない屋久島の森林を実地に調査し、そこに遺された多くの薩摩藩政期以前の屋久杉伐採遺跡を世に明らかにした画期的な論文でした。私もかつてこの論文を読んで、昔は営林署にも偉い人がいたものだ・・・と感銘を受けたものでした。

そして柿木さんの残した資料が自然館に委託され、この秋には閲覧が始まるそうで、とても楽しみです。

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さて「しぜんかん」ですが、意外なところに小原が登場していました。

自然館のロビー右側のマルチビジョン。『花崗岩の島』というタイトルの映像で、不思議な渓谷が写っています。深い淵の中央に写っている白い点。これが安房川を遡行する小原のヘルメットであります。よくみるとその左にもう1人赤いヘルメットかいますが、これは”ネイチャーガイドオフィスまなつ”の真津さんです。

この映像はもう17~18年も前に鹿児島の南日本放送の「どーんと鹿児島」で撮影した安房川沢登りの再編集版なのです。なんと懐かしい。

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2008.05.12

初シャクナゲ@太忠岳

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台風の気配濃厚になった太忠岳です。ときおり強風の吹く中、今年の初シャクナゲを発見。

太忠岳の稜線は標高が1500m以下と低いせいか、例年シャクナゲの開花が早く、5月中旬にはもう満開になります。今日はもうすぐ咲き誇りそうな大粒のつぼみを横目に、天柱石の下でやっと一本だけつぼみから抜け出た花を見つけたのでした。

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これはベッコウマイマイが、雨に浮かれて岩の上でえさをあさっているようです。

2008.05.11

祝「もやしもん」手塚賞受賞

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『もやしもん』が第12回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しました。愛読者の1人として喜びにたえません。

一次選考では、荒俣宏、香山リカ、萩尾望都、印口(おしぐち)崇、いしかわじゅんの各選考委員が高得点を入れ、ダントツで一位。最終選考では「手塚賞としては小粒」という意見もあったそうですが、まあ菌類マンガですから。 

エコツアーガイドのヒント本としても非常に面白く、私もずいぶんいろいろなアイディアを貰ってます(笑)。臭さ世界1位の発酵食品シュールスト“ロ”ミングや、2位のホン・オフェが、1位、2位とされる根拠などは、かの発酵学者小泉武夫先生の業績の数々に拠っているようで、「もやしもん」を科学的に支える柱のひとつになっているのでしょう。参考⇒「小芙蓉城」。(小泉先生ご自身は「もやしもん」とは距離を置いているように聞きますが。)

ところで作者石川雅之氏の作品に「カタリベ」があります。(本棚のどこかに埋もれてるんですが見つからない) これは倭寇をテーマにした壮大なマンガで、八幡信仰やら女真族やら「ナウシカ」へのオマージュやらが東シナ海を舞台に大暴れしたあげく、収拾がつかなくなったのか、1巻のみで未完になってしまった幻の名作です。

「カタリベ」の執筆続行を心待ちにしているファンはかなりの数に上るだろう、と思うのです。

2008.05.10

淀川小屋のバイオトイレ

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いつの間にか淀川小屋にバイオトイレが設置されていました。便槽におくだけの小規模なもののようです。

メーカーは栄電社という鹿児島市下荒田1丁目の水質処理会社で、「片岡菌」を投入し、風力+ソーラーのハイブリッド発電で、攪拌するだけの簡単なシステムとのこと。このトイレで使われている『片岡菌』は、神奈川のダイワ商事が開発したもので、「糞尿固形物のほぼ全量を炭酸ガスと水に分解し、水は蒸発するため通常汲み取りは不要になります」とうたう信じがたいほどの処理能力を備えたものだそうです。うわさは聞いたことがあります。

要するにあっというまに糞尿を食い尽くしてしまう、というわけですね。

 

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これがハイブリッド発電機。

それにしてもいつの間にこんな事業が行われていたのでしょう。栄電社のサイトには経過がずっとアップされていますし、知っている人は知っていたのでしょうが、部外者にはまったく周知されてなかったということか。本当に情報公開って、しないものなのですね。

しかし淀川小屋の便槽の処理をこれでまかなえるかどうかが、問題でしょう。今年の1月の実験でも、蒸発するはずの水分が蒸発せず、便槽内からの水分除去の必要性があり、と問題含みの結果に終わったようです。完全に問題が解決されぬままの施行となったようです。

しかし、もし完全に分解されて水分だけになっているのなら、汲み取って淀川に流してもいいことになりますね。

実際のところの処理能力はまだ未知数という印象ですが、ともあれおそまきながら屋久島の山岳トイレのバイオ化の試みが始まったということでしょう。経過を見守りたいと思います。

環境省アクティブレンジャーの関連日記

大雨警報で、各ツアー中止

本日は梅雨前線が近海に、台風が南海上に居座り、大雨洪水警報が発令されています。他社を含め、島内のほとんどのツアーが中止になっています。

・・・そんななか、島を挙げての大イベントである「ツーデーマーチ」は、中止にするわけにもいかないのでしょう、本日から粛々と開催されており、みなさん豪雨の中をカッパ着用で歩いておられます。

大雨が降ると思い出すのは、4年前のGWに鯛ノ川で起きた、熊本からの沢登りツアー遭難事故です。3名の方が亡くなった屋久島ではまれに見る惨事でした。

屋久島の鉄砲水の凄まじさはよく知っているつもりでしたが、あの事故以来、つねに増水対策の心構えを忘れないようになりました。今シーズンも無事故でゆきたいものです。

YNACではちょうど時間が空いたので会議を開き、ホームページのリニューアルを検討しました。遠からず新装オープンする予定です。どうぞお楽しみに。

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