山岳トイレ問題

2012.01.31

新高塚小屋トイレについて

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新高塚小屋トイレは、現在雪をかぶって冬季の眠りについている。

2010年3月、屋久島山岳部利用対策協議会は新高塚小屋トイレの自己処理型トイレの新設を合意した。工事はヘリで新高塚小屋まで小型の重機まで上げる大規模なものになり、2011年6月に完成、7月から使用が始まった。

完成後に、その利用の経過を観察した上で淀川小屋、高塚小屋などのトイレ整備をどのように進めるか、同協議会で検討することになっている。

山岳トイレとして実績のあるTSS式土壌浸潤型トイレが採用されている。これは優れた分解処理能力のあるトイレで、処理水を土壌に「浸潤」させて蒸散させることにより方法をとっている。

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【図 TSS汚水処理システム概要】(株式会社ティー・エス・エス HPより引用)

ただし、この処理能力が実際に屋久島の高地でどの程度実績を上げられるかは、これから何年か見守らなければわからない。

このトイレの管理作業には、

雨水を貯水槽へ引く雨どいの詰まり

便器から消化槽への詰まり

消化槽の浮遊物(スカム)と沈殿物の状態チェック

ゴミの撤去

分水槽のフィルターチェック

貯留槽の蒸散待ち水量チェック、

など、数段階の細かなチェックがある。なかなか世話の焼けるトイレなのだ。

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この手の公的な山岳トイレは、環境省が建設し、管理は自治体に任されることが多い。しかし新高塚小屋については、環境省と屋久島町(環境政策課)が協定を結び、分担して管理することが決められている。

具体的には町が月に一回、環境省が月に一回、観光協会から委託(金額は年30万円程度)を受けた観光協会が月に一回、現地へ出向き作業に当たる。複雑な仕組みだが、日本ではありがちな分担方式だ。

積雪期の12月12日から今年(平成24)3月まで、新高塚トイレは冬季閉鎖期間にはいった。積雪の状況をみて、使用開始日が決められる。

前述のとおり、今年度の実績を見て、来年度以降の管理作業や、携帯トイレとの併用方針、また他のトイレをどうするかなどを、この期間に検討することになっている。ところがこの作業が進んでいないという。

環境省屋久島管理事務所によると、観光協会が委託からの報告書と、町環境政策課からの報告書が提出されていないのだそうだ。実はどちらも同じガイド業者に仕事を委託しており、その業者が報告書を提出していないらしい。これでは話が始まらないわけである。

ともあれ新高塚トイレは、初シーズンを終えた。来年度の連休シーズンを無事乗り切れるか?また必要な管理人員(その選定を含めて)を確保する方策は? など課題は多い。しかし屋久島初の本格的自己処理型トイレである。なんとしても軌道に乗せて、山の快適な利用を維持するべく、関係者は知恵を集めていっそう頑張らなければならない。

2011.07.19

【新設】新高塚小屋 自己処理型トイレ 2011.7.12

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7月12日、宮之浦岳登山に行った際、新設なった新高塚小屋の 「土壌浸透式(自己処理型)トイレ」を見てきました。

以前の汲み取り式トイレ(写真左)に隣接して、2室のトイレが作られています。3ドアありますが、一番右のものは携帯トイレブースで、トイレではありません。

 

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その裏側。処理水には天水を利用。雨水が屋根の雨どいから2個の貯水タンクに流れ込むようになっています。かなり小さい印象を受けます。容量は合計で300リットル程でしょうか。

右手前のマンホールは、「消化槽」のふたで、この中でし尿が沈澱処理されます。

 

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その左手には土壌処理装置(蒸発散槽)。消化槽で中間処理された汚水はこの土壌中に浸み上がってゆき、有機物は土壌に吸着分解され、水分は屋根の下で蒸散してゆく、という仕掛けです。

 

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こちらは室内です。やや細身の便器。トイレットペーパー以外の物は詰まるので、流さないように、と注意書きがあります。

床には足で踏む水ポンプスイッチ。処理水が多過ぎると蒸散が追いつかなくなる恐れがあるため、水を流すのは1回だけにするよう、こちらにも注意書きがあります。

このトイレに関する環境省のプレスリリースはこちらです。

実際に使ってみた感想は、かなりデリケートで、こまめな世話の必要なトイレだな、というものでした。

中に入ると、まず先客の軟便が便器全体に炸裂していました。ポンプを踏むと、水が少し流れます。1回300cc程度が効率よく便器全体を洗うように流れますが、パワーが足りず、先事例はまったく流れません。

さらに1回、そしてもう1回ポンピング。まだ駄目です。

もし室内に閉じこもった状態だったとしたら、残された手は、持参のトイレットペーパーを大量に使ってこすり落とすしかないでしょうね。ペーパーもなかったら・・・万事休すか。

外には以前汲み取りに使っていた大小のバケツがあり、 水を汲んで来て掃除することは可能です。しかしなるべく水を流さないよう書かれているため、どの程度までやっていいのかわかりません。苦しいところです。

このいわゆるトレンチ式トイレの泣き所は、目詰まりです。ティッシュペーパーなどを流すとたちどころに性能が落ちてしまいます。麓で設置されている同じシステムの春田浜海水浴場や千尋滝のトイレでは、トイレットペーパーを常に補充しておくことで、この問題を解決しているようですが、ここにはさすがにペーパーの補充は無いようです。

このトイレの使用例すべてがスムーズにうまくいけばいいのですが、なかなかそうもいかないのが常です。利用者の多い時期に、一旦なにかで詰まったりすると、そのあとに次々と・・・という事態も考えられそうです。

利用者が全員時間の余裕をもって利用するわけではなく、切羽詰まって飛びこむ人も多いわけですから、マナーの良しあしでは解決しないでしょう。ハイシーズンには管理人が必要になるのではないでしょうか。

そういえば荒川登山口に下山すると、保全募金を集める係が二人もいて、忙しそうにも見えませんでした。せっかくお預けいただいた募金が「募金を集めるための人件費」に消えてしまうというのは、どうも無駄としか思えません。あんなことをするくらいなら、いっそ新高塚小屋に管理人を配置してはどうでしょうか。

ともあれ、今夏のシーズンは、このトイレがどこまで検討するか、見守ることになります。

2011.07.02

新高塚小屋トイレ完成

環境省屋久島自然保護官の松永さんから、屋久島ガイド各位あてに、新高塚小屋トイレ完成の連絡メールが届きました。以下に要点を紹介します。

「…2010年度に環境省が着工した新高塚小屋の土壌処理方式のトイレが、この度完成いたしました。」

「すでに、供用開始されて いる宮之浦岳ルートの携帯トイレブースと併せ、本日7月1日より供用を開始いたしました…」

「本トイレは、雨水を利用した簡易水洗式トイレです。」

「トイレ裏の雨どいや雨水パイプの受け口に、大量の落ち葉等が詰まり、集水に支障が生じること も考えられます。・・・そのような事態が確認されたときは、…除去を行っていただけると幸いです。」

「本トイレの処理能力は合計50人程度/日(1人3回利用/日)と想定しています。ゴールデンウィークや夏季等の利用集中期には、処理能力を上回る利用が予想され、汚水があふれ出たり、悪臭や故障が発生する可能性があります。」

「新高塚小屋において、上記処理能力を上回る宿泊利用が見られる際は、携帯トイレのご利用にご協力ください。」

「本トイレにトイレットペーパー以外のものを流すと、故障や処理機能低下の原因となります」

「足踏みポンプによる簡易水洗式ですが、大量に水を流すと土壌処理機能が低下
します。流すのは1回に限るようにご指導ください。」

「12月中旬から3月中旬までの冬季は、積雪による雨どいの破損防止と、ポンプ
及び配管の凍結破損防止のため、閉鎖いたします。ご注意ください。」


「新高塚トイレの詳細については、下記HPに近日中にUP予定です。ご参照く
ださい。http://www.env.go.jp/park/kirishima/ 」


「環境省九州地方環境事務所 屋久島自然保護官事務所 自然保護官  松永 曉道」  

とのことです。やっと完成です!環境省の皆さんお疲れさまでした。ありがとうございました。大切に使います。

2009.10.27

荒川登山口の簡易トイレ

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先日荒川登山口へ行ったときに見た簡易トイレ。このあたりのレイアウトは誰が責任者なんでしょうかね~。

入口にこれを置くとは。

このスペースが開いているとか思っちゃったんでしょうか。

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こちらは淀川登山口の携帯トイレ回収box。なぜここに置く~?これも責任者はだれ?

2009.10.23

三代杉バイオトイレ村

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小林製薬からバイオトイレが寄贈されました(右の建物)。定評のある正和電工(せいわでんこう)のバイオラックスです。ブルーレット発売40周年記念だそうです。そうかー。もうそんなになるのか(笑)。左の阪急交通社トイレもバイオラックスだったような気がしますが、どうだったかな。

阪急交通社のトイレと並んでます。なんとなくトイレ村のようです。小杉谷の跡ですから土地はいくらでもあるし、こんなふうに、いろいろ実験的なトイレを作って、その性能を比較する、なんて面白いし、世界の役に立つのではないかな。

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中はこんな感じ。木造新築の香りがしてきれいです。

しかしせっかく電線をひいてあるのですが、落雷などで停電しやすいのが、この路線の施設の泣き所でしょう。

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こちらは荒川登山口のトイレ周辺。ひと夏つぶして工事したので、さぞ施設がいろいろできているだろうと思ってたどり着くと、何のことはない、トイレの浄化槽が撤去されているだけで拍子抜け。普通の汲み取りトイレになるそうです。税金を使って無駄なことをしますね~。なにが原因だったのでしょうか?

2009.06.29

バイオトイレ不調 2009.6.27

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バイオトイレ、またも不調です。使えません。

バイオトイレは便槽のおがくずをモーターで撹拌して分解を進め、同時に水分を蒸発させる仕組みになっています。ところが屋久島の多雨の中では水分が蒸発しないのだそうです。で、ねっとりしたおがくずが壁や天井にくっついてしまい、分解が思うに任せないのだとか。

というか、屋久島の湿度や降水量くらい事前調査をしないのだろうか?

また雷による通電でシステムの基板がやられるのだという話もあります。脆弱ですね、このバイオトイレ。

そこで先日の観光協会総会で、バイオトイレを町に引き取ってもらうことが決まりました。

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大株歩道入口トイレ。

あの循環水、ひどいですね~。茶色でまったく分解などされていないのでは。たんに増えた分汲み取りしてるだけなのでしょうか。

2009.06.25

読売新聞 宮沢記者の「屋久島の入山規制」記事について4

今回の縄文杉ルートの利用制限話について私の見解は、次のとおり。

①縄文杉ルートの1日利用人数上限は、屋久島の関係機関で現実に検討されている。しかし寝耳に水、という反応をしている関係機関等も多く、今回の読売新聞の早とちりな報道は、必ずしも方針の決定を意味するものではない。

②縄文杉で起きている現実の問題を検討すると、むしろガイドなどの島民を含む利用者の増加によるルート中の「人口密度」の増大によるストレスが様々な形をとって、利用者の不快感や島側関係者の感情的対立など、何かと問題を生み出しているように思える。

③したがって、訪問客を悪者扱いするのではなく、縄文杉ルートの「人口密度」を下げることで、種々の問題を解決することができると考える。

④この「人口密度」を下げるために現実的に可能な方法は2つ。1つは報道されたような利用者数の制限。もう1つはルートの拡幅、あるいは第2大株歩道の建設によるループ化など、自然への影響を許容範囲内に抑えながら空間を広げて、現在程度の人数の利用を維持する方法である。

⑤私自信はどちらでもいいと思う。人数制限をしたとしてもすれ違いの大変さはたいして変わらないわけだから、いずれにしても大株歩道の拡幅はするべきだ。ただ大株歩道の周辺一帯は大伐採エリアなので、今更歩道の一本や二本作っても自然に影響などないし、ループ化するほうが楽しいと思うが。

⑥話は変わるが、大株歩道の階段群の手すりの設置こそ、最優先でやるべきだと思う。転落死者も出ているのに、関係機関は何をやっているのか。

読売新聞 宮沢記者の「屋久島の入山規制」記事について3

⇒樹齢1000年超の屋久杉が茂り、霧に煙る神秘的な島。そんな屋久島のイメージは、激増する観光客のし尿や踏み荒らしのため崩壊寸前だ。

屋久島の将来をどうするか。事実に基づいて、現実的に考えなければならない。イメージをもとに感情的な議論しても百害あって一利なしだ。

だいたいその土地のイメージは観光地としての戦略を立てる上で重要な資源である。それをこのような記者の勝手な思い込みで台無しにされてはたまらない。真実を見ず、屋久島のイメージをいたずらに悪化させているのは、この宮沢記者や朝日の須藤大輔、鈴木彩子記者のような一部のマスコミ各位ではないのか。

前の記事で書いたように、し尿の問題も登山道も拡幅も、考え方の問題であり、管理手法と設計の問題だ。現実的に処理すれば済む話なのである。それがなぜできないのか。現実に何が問題なのか。問題があるのならそれを打開するにはどういう仕組みが必要なのか。客観的に取材のできる新聞記者のような人たちには、そういうところを鋭く突いてもらいたいものである。

⇒ 今月9日午前5時半。小雨降る平日にもかかわらず、登山道の発着点にある荒川口のトイレには、10人の女性の列ができていた。片道11キロに及ぶ縄文杉への登山道にトイレは3か所しかない。登山道を外れて用を足す人が後を絶たない。

世界遺産登録の翌年に荒川登山口トイレ(1994年)、2000年に縄文杉登山者が1日平均200人を超えると2002年に大株歩道入口トイレ、2006年に日平均300人を超えると2007年に小杉谷バイオトイレが、必要に応じて、後手後手ながら建設されている。高塚小屋 トイレ(1970年)しかない状態からすれば、大いに改善されていると考えるべきだろう。

問題は高塚小屋トイレからの搬出と、分解型トイレのメンテナンスなのである。分解型トイレはまだ実績が浅く、選択した設置者の責任は問われるべきだが、それでメンテに手間取るのは仕方があるまい。国内における屋久島の責任として実験性は必要なのだ。

それから自然を知らない人はどうしても思い込みがあるようなのだが、自然の中では野外トイレが基本である。排泄物は生態系に吸収・分解してもらうのが最善の方法だ。特に屋久島のような強靭な生態系に守られているところでは、自然分解力を最大限生かすべきだと思う。

4つのトイレを持つ縄文杉ルートは、もう十分に整備されている。そこで用を足しきれなかった利用者が野外トイレを使っても、許容範囲の中だと私は考える。

なお、トイレし尿の運び出しは高塚小屋など縦走の際の問題なので、縄文杉登山者とは事実上関係がない。

2009.06.24

読売新聞 宮沢記者の「屋久島の入山規制」記事について2

前エントリーの記事は 「屋久島で、2011年度から」「1日あたりの入山可能人数などを含めた全体構想を定め、関係省庁の認定を受ける。上限を300人程度にする意見が町などから出ており・・・」としている。

これは実際には屋久島の一日の入山上限ではなく、縄文杉ルートをエコツーリズム推進法にのっとって日帰り人数を制限したいというということであり、意味する範囲がまったく異なる。宮之浦岳その他のルートやエリアには関係がない。

この記事にかかわる問題点をいろいろ指摘しておく。

⇒「観光客の急増で自然破壊が進む世界遺産の屋久島」

この手の表現にはいつも二つの点で引っかかる。

一つ目。観光客の急増が自然破壊を進める、と一方的に決めつけるやり方についてである。

縄文杉を見に屋久島を訪れるのは悪いことなのか。

世界遺産に魅かれた観光客が増えてけしからんというのなら、そもそも世界遺産登録を推進して観光客を増やしたのは誰なのか。何のために登録したのか。

世界遺産は地元に自然保護意識を高めたという点で貢献しているが、実際に屋久島の自然を保護したのは自然公園法という法律と、森林生態系保護地域という林野庁の内部規定である。世界遺産条約が屋久島の自然を守ったのではない。

世界遺産の精神から言っても国立公園の目的から考えても、国民のために用意されている施設を利用する人が増えることを「悪い」という理屈はないだろう。問題は利用者のコントロールにせよ施設のメンテナンスにせよ、その施設をきちんと管理しない管理責任者の方にあるのではないか。

それに、「増える」というのは以前から比べるとという相対的な表現に過ぎない。屋久島は尾瀬や大雪山などの脆弱な自然と違い、強靭な森林生態系の成立する場である。現場の分析からどの程度の利用人数が適正かを科学的に見極めて初めて適正規模かどうかを判断できるのだ。

二つ目は、環境破壊が進んでいるという認識が、現実からずれている、ということである。

縄文杉ルートで問題となっているのは、トイレの管理と登山道の拡幅だ。

トイレの管理には分解型だろうと搬出型だろうと、環境省が現在検討している線に沿って安上がりで効率的な方法を選べばよく、費用と受益者負担の問題は、すでにレクリエーションの森保護管理協議会(会長:屋久島町長)が屋久島自然休養林(ヤクスギランドと白谷雲水峡)で有り余る協力金を訪問者から集めているのだから、これを受け取り方を変えて屋久島全体の予算として使えばいい。同一国有林内の貴重な自然のためなのだから、利用者がこれに反対するはずがないではないか。

登山道の拡幅は、木道の幅が狭く、対向者が来たら脇に下りてやり過ごさなければならないという設計の不十分さが原因だ。いまどき人気のある登山道や遊歩道ですれ違い可能な2者線(?)の歩道など珍しくなく、普通に考えれば大株歩道もすこし幅を広げればいいだけの話である。

思うに、いま屋久島の自然は昭和期における国有林の合計3万ヘクタールを越える大伐採の被害から、なんとか回復してきたところである。大株歩道は当時幅50cm程度の伐採用歩道として作られ、それが現在伐採などせず見るだけを楽しもうという利用者の増加によってそれが幅1mほどに拡がるという事が、どれほど問題なのか。たんに管理設計の問題ではないか。

そもそも現在の屋久島で本当に自然が破壊されているところは縄文杉ルートではないだろう。県道白谷線、県道ヤクスギランド線、それに南部林道である。あのような大破壊を行い、しかもそれは登山者のアクセスを容易にするためのものでありながら、大株歩道の利用が多いのはけしからんとは、どう考えても主張がねじれている。

読売新聞 宮沢記者の「屋久島の入山規制」記事について

「観光客増、荒れる世界遺産…屋久島に11年度から入山制限 」

というタイトルのYOMIURI ONLINE(読売新聞)6月20日付記事が島内外で物議をかもしている。

読売新聞地方部 宮沢輝夫記者の署名記事で、記事の前半はよくあるプレス発表風、中間に外部の事例や専門家の見解をはさみ、後半は宮沢記者自身のルポのようなスタイルをとっている。

島内各機関が島内の一部地域で入山制限を検討しているのは事実だが、率直に言って、前半はすっぱ抜きを狙った勇み足+事実誤認、後半はかなり思い込みの強い文章と評せざるを得ない。

各紙の動向を見ていたが、この時点で同様の記事を載せた新聞などは他にない模様だ。

ただ5月5日に朝日の鹿児島版にも、須藤大輔、鈴木彩子両記者の署名で似たような論調の記事が載っている。こちらの方が表現がえげつない。

ネットの記事はいずれ削除されてしまう可能性が高いので、以下に読売の全文を引用する。

環境省と鹿児島県屋久島町は、観光客の急増で環境破壊が進む世界遺産の屋久島で、2011年度から初めての入山制限に踏み切る方針を固めた。

 昨年4月に施行されたエコツーリズム推進法の初適用を目指す。自然公園法とは異なり、地元市町村が立ち入り制限区域を指定できるのが特長で、違反者には30万円以下の罰金が科される。

 屋久島は、推定樹齢7200年ともされる縄文杉や地表を覆うコケなどの自然美や生態系が評価され、1993年、白神山地(青森、秋田)とともに国内初の世界遺産に登録された。

 登録をきっかけに入山者が急増。08年には10万9000人に上り、休日の入山者は1000人前後に達することも珍しくない。特に、し尿の現地埋め立て処分が限界にきている。

 04年、環境省からエコツーリズムのモデル地区に指定された。町、環境省、国有林を管理する林野庁などでエコツー推進協議会を発足させ、ガイド制度や過剰利用対策を議論している。

 今後、1日あたりの入山可能人数などを含めた全体構想を定め、関係省庁の認定を受ける。上限を300人程度にする意見が町などから出ており、日高十七郎(となお)・屋久島町長は「世界遺産を守るのは我々の責務」と強調する。

 屋久島のほかには、沖縄・慶良間(けらま)地域がサンゴ礁保護のため、エコツー推進協で立ち入り制限を検討している。また、自然公園法に基づき、吉野熊野国立公園の一部で入山制限がある。

 国立公園協会(東京)の鹿野久男理事長の話「入山者のマナー徹底や、ガイド同伴を入山の条件にする制度も同時に実現させれば、モデルケースになり得る」

 ◆エコツーリズム推進法=過剰利用地域の立ち入りを制限して観光資源の保護を図ることで、ブランド力を高め、観光振興との両立を目指す。環境保護意識の高まりを受け、議員立法で成立。罰則もついた。屋久島は霧島屋久国立公園の一部だが、国立・国定公園以外でも適用できる。

 ◆木の根・コケ踏まれ、トイレ足りず◆

 樹齢1000年超の屋久杉が茂り、霧に煙る神秘的な島。そんな屋久島のイメージは、激増する観光客のし尿や踏み荒らしのため崩壊寸前だ。

 今月9日午前5時半。小雨降る平日にもかかわらず、登山道の発着点にある荒川口のトイレには、10人の女性の列ができていた。片道11キロに及ぶ縄文杉への登山道にトイレは3か所しかない。登山道を外れて用を足す人が後を絶たない。

 5キロほど先には、ログハウス風のバイオトイレがあるが、「メンテナンス中」の札が下がっていた。男女兼用で、数も2基しかない。大型連休中に利用量が限界を超え、おがくずによるし尿の分解ができなくなり、1か月過ぎても復旧できずにいた。

 植生荒廃も危機的だ。一部に木道もあるが1人分の幅しか確保できないため、観光客はすれ違う際に道をはみ出して歩く。削られた地表に雨水が流れ込み登山道の幅が広がったり浸食されたりする悪循環が続く。

 ようやく到着した縄文杉は、木製デッキの上からしか見物できない。観光客による踏み荒らしで根っこが露出し、遺産登録から3年たった1996年に設置されたが、カメラを手にした人でごった返していた。

 「大きな木の裏でするんだよ」。縄文杉を過ぎて約50メートル辺りで、男性ガイドが女性客3人にトイレットペーパーを手渡していた。3人は、進入禁止のロープをくぐって木の根やコケを踏みながら、原生林に消えた。

 環境省は今季、携帯トイレの普及に取り組んでおり、大型連休中に縄文杉ルートで試験実施もした。ガイドも承知のはずだが、「やむを得ない」とあきらめ顔だった。(地方部 宮沢輝夫)

(2009年6月20日14時41分 読売新聞)

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