鹿児島県伊藤知事の屋久島「入山料」に関する発言が新聞等で報道されました。(南日本新聞と朝日新聞鹿児島版の記事全文をこのページの後半に引用してあります。)
記事に引用されている箇所に間違いがなければ、「保全募金が思うように集まらないので強制的に徴収したい、利用者の理解は得られる」 という主旨です。
ただ二牟礼県議は「入島税」について訊いているのに、知事は「入山者に負担」いただく、という回答をしており、微妙にずれがあるようです。
それはともかく、発言の全文はまだ公開されていないため詳細はわかりませんが、とりあえずコメントしておきます。
①屋久島利用者から保全募金が730万円も集まったことに対して、県としてまず感謝の気持ちを表明すべきではないのか
(もし知事がその旨発言されていたのなら、お詫びのうえ訂正しますが)
目標額4000万というのは県の胸算用であって、募金をしてくださった屋久島訪問客の皆さんには関係の無いことです。これはあまりにも無礼ではないか。
YNACも微力ながら大多数のお客さんに募金への協力をお願いし、少なくは無い金額を事務局へ届けています。県にこんなことを言われては、募金をしてくださったみなさんに合わせる顔がありません。
②利用者の理解は得られる、というが、利用者からはすでに白谷・ヤクスギランドの入山協力金が年間4000~5000万円も徴収されており、これは実質林野庁に権限を残しながら一応屋久島町長が会長を勤める「屋久島レクリエーションの森保護管理協議会」が受け皿になっています。
今回の「入山料」もおそらく屋久島町が受け皿に想定されていると思われますが、林野庁系の「協力金」を料金のような顔をして事実上徴収しておるのに、それは「見ないようにして」別の料金の徴収も「理解を得られる」というのははたしていかがなものか?
1人にでも聞いてみればわかりますが、利用者は屋久島のために協力金を出してくださるのであって、林野庁に寄付しようとか県にプレゼントしようとか思っているわけではありません。①のことといい、「利用者の視点」というものが欠けているのではないでしょうか。
③屋久島の場合自然資源の管理は環境省、林野庁、屋久島町、集落などが複雑に絡み合っています。林野庁のこれまでの仕事が典型的ですが、それらがてんでに管理費用を集めようとするために、せっかくのお金が徴収業務そのものに費やされてしまうため、かなり無駄になっています。
白谷・ヤクスギランドでは、集まった4472万円(平成17年度)の全額が平18年度に消化されました。そのうち実際に施設管理・整備のための予算として消化されたのは1140万円にすぎません。残りの3288万円は、受付人件費とパンフ・チケット印刷費用に消えています。
また、この「協力金」は任意のものなので、徴収人を置いてあたかも「料金」であるかのような顔をして金を取る、といって悪ければ、徴収人を置いて利用者にプレッシャーを与えて金を取る、という手法が使われているわけですが、これは果たしてフェアなやり方でしょうか?
しっかりと責任を持って入島料ないし入山料を徴収し、屋久島を何とかしてゆく、ということになれば、もはやそのようないいかげんな体制ではどうにもなりません。
この期に及んで受益者負担に反対するわけではありませんが、集まった資金を最大限有効に活用するためには、たとえば「屋久島自然管理局」というような実際的な機能と権限を持った主体が必要になるのではないでしょうか。1人の屋久島好きとしては、しっかり現場のことがわかった司令塔が欲しいと思います。
⇒県に提出した募金に関するパブリックコメント
⇒林野庁に対する批判
⇒悲惨な状況の例
⇒利用のあり方の問題点
以下南日本新聞・朝日新聞鹿児島版の記事全文を引用~~~~
2008年12月4日(木) 南日本新聞(1面)
屋久島入山料導入へ トイレ募金低調 環境保全目的に 伊藤知事表明
鹿児島県の伊藤祐一郎知事は三日、屋久島の登山者から環境保全目的で入山料を徴収する考えを明らかにした。制度の詳細や導入時期などは、今後、屋久島町など関係機関の意見も聞きながら調整する。県議会代表質問でも答弁。(22面に関連記事)
山岳部トイレからし尿を人力搬出するため、屋久島山岳部利用対策協議会(事務局・県環境保護課)が四月から実施している「トイレ募金」への募金が低調で、目標額を大きく下回っているため。
県民連合の二牟礼正博県議から「入島税」導入の考えを聞かれた伊藤知事は、税という言葉は使わなかったものの、「自然環境保全にかかる経費の確保について、入山者に負担をいただいても理解は得られる。一定の強制力で確実に協力が得られる仕組みを今後構築したい」と応えた。
県環境保護課によると、トイレ募金は年間四千万円を目標にしていたが、10月末現在で約730万円にとどまっている。
県は2000‐03年、法定外目的税の1つとして、入島税や入山料の可能性をさぐったが、「課税対象の把握公平性の観点から創設は無理」と結論付けた。しかし、最近は登山者が増えたことや環境への意識の高まりから、再検討する価値があると判断した。
2008年12月4日(木) 南日本新聞(22面)
屋久島入山料 協力金と整合性課題 県、92年から議論重ねる
屋久島山岳部への入山者に課金する発想は、鹿児島県が1992年に公表した「環境文化村構想」の中で「環境キップ」として議論が始まった。伊藤祐一郎知事が3日、徴収の考えを示した入山料は、既存の協力金や入山許可との整合性など、整理すべき課題が残る。(一面参照)
環境キップは世界自然遺産登録を目指す際、保護ゾーンと位置づけた山岳部への観光客入り込みをコントロールする入山規制策として浮上した。
世界遺産には1993年登録。観光客増加で登山道の荒廃が進み、島に持ち込まれるごみやし尿の処理費がかさんだ。環境保全費用捻出のため、観光客にも負担してもらおうと、入山料や入島税の形でも論議が重ねられたが、実現には至っていない。
島内では現在、林野庁が指定する自然休養林2ヵ所で協力金300円を徴収しており、二重取りの指摘もある。また林野庁が狩猟者に与えている入山許可との整合性や規制の根拠となる法律など、観光業者らへの越名責任が求められる。
規制を伴わない入山料の一律徴収は、登山者数抑制で自然環境への負荷を小さくするという、当初の目的からは外れることになる。
2008年12月4日(木) 朝日新聞(鹿児島版31面)
屋久島に「入島税」 環境保全に県検討
屋久島の入山者のし尿埋設処理が自然環境に悪影響を与えている問題で、伊藤祐一郎知事は3日、県議会12月定例会で「一定の強制力を持って、確実に一定の協力を得られる仕組みを構築することが世界自然遺産の島・屋久島の自然環境を守るためには必要」と述べ、入島税や入山料の導入に向けて検討を進める考えを明らかにした。
県民連合の二牟礼昌弘県議の代表質問に答えた。伊藤知事は「し尿処理を含めた自然環境保全にかかる経費の確保について、入山者から一定のご負担をいただくことは入山者からのご理解を得られる」との見解を示した。
今年4月、登山者用トイレにたまったし尿の搬出費にあてる「トイレ募金」を解説。県環境保護課によると、登山のピーク期を過ぎた11月5日時点で729万円と、目標を大幅に下回っている。
飛行機や船の運賃に上乗せする入島税は沖縄県の伊是名村と伊平屋村の2例があるが、島民にも負担を強いている。入山料も徴収にかかる人件費の課題があるという。
引用以上~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大まかな感想を述べると、南日本は「金の徴収は屋久島入り込みへ制限をかけるためのもののはずなのに、主旨が違ってきている」という論旨、朝日は短い記事ながら「登山者がし尿で汚すのでけしからんから・・・」というニュアンス。
新聞記事に記者のバイアスがかかることはあるだろうとは思いますが、基本的に両記事ともいまいちです。
特に朝日の「屋久島の入山者のし尿埋設処理が自然環境に悪影響を与えている問題」という表現は、入山者がし尿を埋設するから自然に悪影響が出る、という意味に誤解される危険があります。
登山者は管理者の指示どおりトイレを利用しているのであって、埋設処理に失敗しているのは管理者の責任です。縄文杉や宮之浦岳登山者の増加についてはもう15年も前から指摘されているのに、埋設が問題になっている小屋のトイレはその頃のままなのですから、トイレの破綻を登山者のせいにするのは、関係者の言い逃れにすぎませんし、そのことをもって利用者を非難する筋合いでもありません。
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